神田さん好きに20のお題





11:君の微笑むところ



君の微笑った顔が見たい。

もうすぐ夜も明ける頃
隣で眠る君を見ながら、ふとそう思った。
眠ってる君は昼間見るのとは違って、とても安らかだ。
昼間は誰より近寄りがたい雰囲気を持つ君。
そんな君が、いつもは嫌悪する僕の隣で、
こうして無防備な寝顔を晒してくれるようになったのは、
いつからだったろう。
まぁ、僕らの出会いを考慮すれば、
これは大変な進歩だと、言えるのだけれど…。




今日の夕刻、偶然君を見かけた。
君の隣を歩く人影に、一瞬どきりとしたけれど、
それが例の彼女である事にホッとした反面、
やはり嫉妬ににた感情を覚えてしまう。

例の彼女ことリナリーは、教団幹部であるコムイ室長の妹にして
室長助手の肩書きを持っている。
そんな彼女は、どうやら君との付き合いが長いらしく、
あまり人との馴れ合いを好まない君と、
唯一会話らしい会話が成り立つ相手、と言ってもいい。
そんな二人の姿を、
(本当は君しか目に入っていないのだけれど)
ほぼ無意識に目で追ってしまっていた…。

その時。

不意に彼女が君の袖を引っ張って、
幾分高い位置にある君の耳元に唇を寄せて、
何事かを呟いたようだった。

そしてその瞬間、僕は見てしまったんだ。

君は一瞬、驚いたような表情を浮かべて、
そして少し照れたように、はにかむように。
ほんの一瞬、本当に一瞬だったけれど、
ふっと微笑みを浮かべたのだ…。

君のあんな顔は、初めて見た。
僕の知らない一面を、彼女は知っているのかと思うと、
彼女が悪い訳ではないのだけれど、
思わず嫉妬せずにはいられなかった。




そして遡る事数時間前。
昼間の嫉妬をぶつけるかのように、幾分乱暴気味に君を抱いた。
けれど、君の態度はいつもと変わらず、
僕だけが空回りしているようで…。
行為の後も、まるで何事も無かったかのように眠る君。
忘れてしまおうと思っても、どうしても浮かんでしまうあの笑顔。
君が僕に見せる笑い顔といえば、口の端を吊り上げて…
見下すような顔ばかりなのに…。
彼女に見せたようなあんなに優しそうな笑顔は
僕には一度だって向けてくれた事はなかった。
笑いかける所か
未だに名前すらまともに呼んで貰えないのだけれど…。





「…僕には、見せてくれないんですかねぇ…」





思わず口をついて出てしまった自分の声に、
慌てて口を押さえる。
起こしてしまったか、と君を見れば、
身じろぎはしたものの、まだ眠っているらしかった。



その時。



君の唇が何事かを呟いて…

「…ア…レン…」

そして…



ふっと、微笑みを浮かべたのだ。



不意打ちだ。
思わず目の錯覚かと、息をするのも忘れて君を凝視してしまう。
我に帰った瞬間、思わずあたふたと挙動不審になってしまい、
なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
ふと、それまでモヤモヤとしていた気持ちが無くなっているのに気付く。
君の一挙一動でこんなにも左右される、
自分はそんなに単純な人間だったろうか…。




ぽすりと枕に顔を埋めて、眠る君の髪を梳く。
今はまだ、これで十分なのかもしれないと思いながら…。





でも





でもいつか、君が僕に笑いかけてくれる日が来るのだろうか、
と考えながら…








何時の間にか僕は、眠りに付いていた…。

神田さんに振り回されるアレン君でした(笑
一応、神田嬢でも氏でも、どちらで読んで頂いてもOKな感じで。
とある部分で反転すると、糖分がちょっぴり上乗せされる悪戯付きです。