神田さん好きに20のお題




15:その理由


その1。

「―――好きだよ」

そう呟いて、髪を撫でるこの手が忌々しかった。
事あるごとに、コイツは自分を好きだ、と言う。
何が、と問い掛ければ、コイツは答を出すのだろうか。
髪か。この整いすぎた顔か。それとも、この身体か。
それとも…。

「触るな」
「どうして?」

好きなのに?と、振り払った手が伸びる。
だから、何が、だ。
今一度と伸びた手が、この身を抱き込めば、
白衣に染み付いた珈琲の香りが鼻腔を掠めた。
本当の事等、聞く勇気も無いくせに。心の中で、何度も問い掛けた、その理由。
自分の中のアイツは、その問いにいつもあの笑みを浮かべるだけだった。
現実のアイツは、この問いにどう答える。
同じように微笑むだけか。それとも。
答えが得られた所で、どうすると言うのだろう。
望むままの答えが返ってきたなら、自分はどうだと言うのだ。

「どうしたの?今日はやけに、大人しいけど」
「…別に」

どさりとベッドへ倒されて、口付けて、視線を合わせ。
そしてまた、好きだと呟いて。
ガラスの奥で光る瞳が、何を見ているのかさっぱりだった。
ただの『好き』なら、こんな事、他の誰でも構わないだろう?
それでも、ソノ事を問う勇気は、無い。
こんな状態でも、かろうじて繋がれた、この糸の様に細い線が
途切れてしまう事が怖いのだ。まったく、呆れるほど性質が悪い。
こんなにも緩く握られた手綱なら、いっそ離してくれたらいいのに。
否、ならば、もっときつく、確実に縛り付けてくれたらいいのに。


我侭な自分は今日も、流されるまま。



その2へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15:その理由


その2。

「―――好きだよ」

髪を撫でてその言葉を口にする度、この子が眉を寄せるのを私は知っている。
其れが何を意味しているのかも、知っている、つもりだ。
言葉を飲み下すように、息を呑む様を、何度も見た。
もしもこの子が言葉を吐いたなら、私はどう答えるのだろう。

「触るな」
「どうして?」

小さく息を呑んで、私の手を振り払う。
好きなのに?と、その身を引き寄せると、案外大人しくこの腕に収まってくれる。
私はこの子に、『愛』という言葉を吐いた事が無かった。
それが自分の本心であれど、いつも『好き』という言葉に置き換えている。
その事が、この子が眉を寄せる一因なのは、十分に理解している。
だが肝心の、この子が本当に望む物が何なのか、未だ指し図れていないのだ。
私の本心を吐露してしまったら、この子はどうするのだろう。
極端に縛られる事を嫌って、私から離れてしまうのだろうか。否。

「どうしたの?今日はやけに、大人しいけど」
「…別に」

極力優しく、ベッドへと倒す。
今日もまた、この子は何でもないフリをして、私にその身を預けた。
この子は、何を望んでいるのだろうか。
他に幸せを求めるなら、私がこの手を離す事が一番だと、理解はしているつもりだ。
それでも。もしもソレが現実に起こってしまったなら、私はこの手を離す自信が無い。
この子を壊してしまうかもしれない。否、自分が壊れてしまうかもしれない。
束縛はしたいとは思わない。
だが、このギリギリの細糸で繋がれた関係を、失うこともまた怖いのだ。
まったく、浅ましい自分に、思わず苦笑が漏れる。
どうすれば、最良の結果が得られるだろうか。
策士である程の私が、これほどに頭を悩ませるとは。
本当に難問だ。
その間にも、止まる事無く日々は流れ。


私は今日も、この言葉で、この子を繋ぎ止める。


カンダ好きさんに20のお題より。
コ ム 神 で す !!(そこまで言い張るか)
肝心な所ですれ違っちゃってる二人、の巻。