9:愛なんて
愛なんて物ほど
曖昧で
不確定なものなんて無いと思う。
「…ねぇ、カンダ」
「……」
「カンダってば!!」
「…んだよ、うっせぇ…」
「…愛してますからね」
出会いは滅茶苦茶。
散々モヤシ呼ばわりしていたコイツと
何となく
本当に何となく
そばに寄る事を許してしまって
気がつけば
身体を重ねるような関係になってしまった。
そんな今の関係になってから暫く立つが。
ヤツは何かと俺の部屋へ来るようになって。
自分の部屋なので出て行く義理もないと、
俺は大き目のベッドへ転がって本を読む。
そんな奇妙な習慣が付いてしまった今日この頃。
ヤツは決まって冒頭の会話(?)
を繰り返すのだ。
そして。
今日も今日とて、夕食を毎度お馴染みの異常な食欲で満たした後、
俺の部屋へとやって来た。
ベッドにいる俺の隣へやって来て、
俺が本に没頭していると分かるや否や、自室に帰るでもなく
同じように隣へ寝転ぶ。
そうして、夜寝る間際で解かれた俺の髪へと手を伸ばし、
飽きる事無く、一房摘み上げてみたり、梳いてみたりと遊び続け、
暫くすると、アノ毎度の会話へと繋がるのだった。
「ねぇ、カンダ。」
「……」
「…それって何の本なんですか?」
「……」
「ねぇ、カンダってばぁ…」
「…うっせぇな、黙ってろモヤシ」
「な…っ!やっとこっち向いたと思ったらまたそれを言う…っ!」
「…だったら何なんだよ…」
「だから、僕はモヤシじゃなくてアレ…ってあぁもう、そうじゃなくて!!」
「んだよ、うっせぇな早くしろよ」
「あぁもう、だから!…カンダ、愛してますからね」
あぁ、また来た。
当の本人はニコリと笑顔を浮かべたまま、どうやら俺の返答を待っているらしい。
「…勝手に言ってろ」
そう言ってまた、本へと目を落とす。
いつもならばそこで、
「はいはい、分かりました」とか「まったく素直じゃないんだから…」
とか何とか言って、やっと自室へと帰っていくはずなのだが。
何故か今日は違った。
「…カンダ」
髪を撫でながら身を乗り出し、少し強引に仰向けへ倒される。
サラリ、とヤツの前髪が零れて額のペンタクルが覗いた。
突き合わされた顔に、呆気に取られつつも
すぐに睨み付けてやる。
「…てめぇ、何す」
「カンダ」
頬を撫でながら、もう一度呼ばれる。
「…カンダ、愛してます」
「何言ってんだ…っ、いいからどけよっ!」
意外と強めの力で押さえ込まれ、身動きが取れない。
掴まれた手首が、少し痛む。
「嘘じゃない、本当に…愛してるんです」
耳元で囁くように言われ、ぞくりとしたものが背中を走る。
思わず目をギュッと瞑ってしまい、半ば叫ぶように言った。
「…っお、俺は…っ愛してなんか…ねぇよ…っ」
ヤツの視線が突き刺さるように感じた。
「…それでも」
ちらり、と見上げてみると視線がぶつかり、そのまま外せなくなってしまう。
「…な、なんだよ…」
「君が…たとえそうだとしても僕は、愛してますから。貴女を」
「…っ」
不意に顔が近づけられて、唇が重ねられる。
どくり、と心臓が鳴った。
撫でられている頬が、カッと熱くなるのが分かる。
呆然と言葉も出ないでいると、ヤツはその反応に満足げにクスリと笑い、
ベッドを降りていく。
自分は未だ、起き上がれもしないでいた。
まるで、心臓が頭にあるかの様に鼓動が響いている。
やっとの事でヤツを見ると、すでにドアノブに手をかけていて。
「おやすみなさい、カンダ。…良い夢を」
そうしてパタリと扉が閉まる頃、ようやっと起き上がる事ができた。
あぁ、顔が熱い。
自分の顔は、きっと珍しいほど赤くなっているのだろう。
そして、アイツにもそれを見られた。
こんなにも動揺してしまった自分の顔を。
あぁ、なんてこと。
不覚だ。
あんなヤツに、まんまとしてやられた。
ぴたりと閉まった扉を睨み付けて、チッと舌打ちをする。
そのままボスリとベットヘ倒れ込み、そっと唇に触れてみる。
まだ感触が残っているような気がして、手の甲で拭った。
「…認めねぇ…」
天井を睨み付け、ぽつりと呟く。
まるで、自分に言い聞かせるように。
「あんなヤツなんかに…
…愛してるなんて、言ってやるもんか…」
アイツの笑った顔が浮かんだ気がした。
どうやら今夜は
眠れそうにないようだ。
愛なんて物ほど
曖昧で
不確定なものなんて無いと思っていた…。
カンダ好きさんに20のお題より。
ひぃっ!あ、あの…一応嬢のつもりで書いてたんで、
それらしくしようと思ったんですけど…
無駄に乙女になってしまった感が否めない気が…
しかもお題ずれた。
えぇっと、一応何だかんだ言いつつもしっかり惚れちゃってる
神田嬢にしたかったんだけどなぁ…
私的には「愛なんて〜」の台詞が最後の方だけ過去形に
なっている所がみそ。
わかり辛…(涙
煌。
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