…私が会いてぇよ(本当に正直だなあんた)
※ この先、すっごい暗い話がウダウダと展開されています。
本誌44号のラビの心境を妄想の上でなぞっただけの話ですが、
兎に角暗い話が嫌いな方は読まないほうが吉です。
頬へ吹き付けるような風は冷たく
まるでぽっかりと 大きな空洞が空いたかのような胸の辺りへ
じわりと沁みた
++ Conflict ++
船底の壁面へと打ち付ける白波は、まるで荒ぶった心情を表しているようだった。
当たっては砕け、当たっては砕け。時折潮風に煽られて、飛び散る飛沫が頬へ掛かるのを気にも止めず、ただ寄せては返ってゆくだけの波間をぼんやりと眺めていた。
************************************
『戦争にハマるな』
『如何なる事態にも 傍観者であれ―』
・
・
・
・
・
『―たまたま 教団側にいるだけだ』
************************************
頭の中に何度となく、師の言葉が木霊していた。
何気なく手にした1枚のカードをパシリと弾くと、それはふらふらと、潮風に遊ばれて揺れた。
何に囚われる事無く揺れているようで、然し自らの指に摘まれたカードは、離れる事はない。
小さく、大きな鎖に縛られたようなソレは、まるで今の自分を見ている様で、ラビは思わず苦笑を零した。
「…たまたま、か…」
一つ、記録者として 常に公平に物事を見定めよ
一つ、何ものにも属さぬ 内なる傍観者であること
一つ、何時如何なる時においても 私情を挟む事なかれ
歴史という、壮大な世界の全てを記録する者の掟。
この道を示された幼い頃から、それは常に言い聞かされ、己の中に留めていたはずのモノ。
頭の中に浮かんでは消えてゆく、その一説を半濁しながら吹き付ける風に任せて頭を振った。
甲板上の彼女に憤りをぶつけた自分は、何と愚かだったのだろうか。
教団側と記録者とは、相容れない存在で、立場はまるで違うモノ。
内に居ながらにして『外物』である自分に、どうしてあんな事が言えただろう。
「…チ…っクショウ!!」
言いようのない、苛立ちと嫌悪感。
船縁に叩き付けた拳は、己の浅ましさ故か。それとも、その境遇への恨み故か。
ラビは、自身のこの特殊な立場を自ら受け入れていたつもりであったのだ。
だからこそ、己の軽率な発言も去る事ながら何時の間にか、自分でも気付かぬ内に『彼らと共にある自分』に
浸ってしまっていた事実を、まざまざと突きつけられた気がしてならなかった。
「俺、ブックマン失格かな…」
今の自分は仲間じゃない、仲間ではいけない。
分かっているのにそれが出来そうにない自分。
いつか、彼らが地に伏せる瞬間が来てしまった時、自分はただ、見ているだけでしかいけないのか。
ぐるぐると渦巻くような心境に、絶えられず瞼を伏せる。
じわりと痛んだ瞼の裏に、彼の顔が浮かんだ。
「……ユウ……っ」
小さく呟いた彼の名は、波の音と共に掻き消されて行く。
ただ、彼に会いたかった。
会って、話す事なくただその身をこの腕に掻き抱いて。
今でも鮮明に思い出す事の出来る彼の体温を、ただ無性に感じていたかった。
「ブックマンに心はいらないんさ…?いらない、いけないのに…っ!」
――そんな事、出来る訳が無いじゃないか。
暖かな体温も。
柔らかな髪の手触りも。
見据えた様にキラキラと光るあの瞳も。
自分の名を呼ぶ、あの声も。
やたらと記憶力の良い自分が、この時ばかりは憎い。
互いに幼き日より日々、共に成長してきた彼の、一瞬すらをも覚えている。
こんなにも彼の全てを刻み込んでしまった今、どうして。
どうして、思わずにいられると言うのだろう。
体中を、心さえも引き裂かれるような苦痛に、ラビは己の身体を掻き抱いて蹲る。
今はただ、サラサラと髪を撫でて行く風だけが優しかった。
今の自分を見た彼は、一体何と言うだろう。
情けないと、笑うだろうか。下らない事だと、罵るだろうか。
何を言われようと構わない。
ただ、君に―。
「…会いたいよ…ユウ」
ラビの笑顔が好きだと言った直後に、どシリアスを書く天邪鬼ですご機嫌よう。
こんな妄想のうちじゃなくて、本当の所ラビはどう思ってるんでしょうね…。
ベタベタな展開にハマりやすい、という典型例でした。