※この先危険物注意報





※この先、何があっても大丈夫、という方だけ読んで下さい…
 アレンがぶっ壊れてます。ちなみに見えなくても嬢設定です。










もうどれくらい時間が経ったのだろう。
薄暗い回廊を、神田は走り続けていた。
髪は解け、着ていた団服も乱れたままだったが、
其れさえ気にかける余裕も無いまま、ただひたすらに。
先ほどから、同じ場所をぐるぐると巡っている気さえしてきて、
流石の神田も息が切れる。
どうやらアレ、は巻いたようだ。走り続けながら背後の気配を伺っていた
神田は、少し安堵する。
これ以上走り続ける事にそろそろ限界を感じ始めた頃。
ふと、目の前に扉を見つけ、迷わずその部屋へと飛び込んだ。

「…っはぁ、はぁ…ったく何なんだよアレ…っ!!」

とりあえず今は、少しでも体力を回復しなければ。
神田は部屋の隅の壁へと体を預けて、ドサリ、と倒れるように座り込んだ。
酸素を欲して肺が悲鳴を上げている。
極度の酸欠からか、ぼんやりとした頭を振り、何とか意識を保つ。

「(…アレはAKUMAでも人でも無ぇ。あんなおぞましい物がこの世にあってたまるか…っ)」

思い出すだけで背筋がゾッと凍り付き、冷や汗が頬を伝う。
百戦錬磨の神田でさえ、
アレに捕まれば最期だ、と本能で感じ取っていた。

「…クソ…っ!!」

六幻を握る手に自然、力が篭る。
未だ息は上がっているものの、幾分落ち着いてきた。
ふぅ、とため息をつき、目を閉じてゴツリ、と頭を壁に預ける。
胸に巻いたサラシが、汗を吸って大分気持ち悪い。
元々乱れたままだった団服の前ボタンを、
半ばむしり取るように乱暴に外す。
そのままよりも幾分マシだろう、と神田はバサリとコートの前を肌蹴た。
汗でしっとりと濡れた肌に、外気のひんやりとした空気が心地良かった。





どれくらいそうしていたのだろう。
ぼんやりとした意識の中、遠くでガシャーン、と
何かが破壊される音が聞こえた。
その物音に、ビクリ、と体を震わせて、神田は我に帰る。
瞬時に神経を耳に集中し、外の気配を伺った。

「(クソっ、もう来やがったか…っ)」

アレ、はまだ幾分遠くにいるものの、確実にココへ近づいているようだ。
気配が近づく度に、神田は自身の鼓動が早まるのを感じた。
震える体を叱咤して、もう一度、相棒を握りなおす。
すでに撃退できる自信は無い。だが迎え撃つ他に手も無いのだ。
気配はもうすぐソコへ迫っている。

「(…来るなら来やがれ、化け物め…っ)」


…神田は覚悟を決めた。




神田のいる部屋の前で、その気配はぴたりと止まった。
息を殺す神田にも緊張が走る。
背筋をつぅ、と冷や汗が伝った。
その沈黙が、実際はものの数秒だろうが、神田には1分、いや2分。
30分にも長く感じられた。

その時。

ギィィィィ、と嫌な音を立てて扉に隙間が開いた。

「来るなら来いっ!叩っ斬ってやるっ!!」
「…カンダ、みぃ〜つけたぁ〜v」
「……っ!!!」

その僅かに開いた隙間から、ソレは進入を開始し始める。
ゾロゾロ、ウゾウゾと…。

「…ひ…っ!!」

覚悟はしていたものの、やはりおぞましいものはおぞましい。
一瞬にして体も硬直し、握り締めた六幻がカタカタと鳴った。
それもその筈。なんたって隙間から進入、
増殖しているのはあのモヤシ、なのだから…。
しかしただのモヤシと侮るなかれ、
普通のモヤシだったら意地で食ってやるというもの。
そいつ等は姿形こそ野菜のモヤシ。だがしかしその体でどうしてそんな事が出来るのか、見当もつかぬ速さでウゾウゾと動き回る。
挙句の果てには「ケケケケ」と鳴き声まで聞こえてくる始末。

「(こんなモヤシがあるか普通!!いやあるハズ無ぇだろ…ってか…あってたまるかーっ!!)」

涙目になりながら、もはや一人ツッコミをするほど気が触れたか、と
神田自身もそう思う。
最初は僅かな隙間から進入していたモヤシの大群は、
扉が大きく開くにつれ、その多さを増していく。

「…やめろっ!来るなぁっ!!!」

ゾロゾロゾロゾロ、とモヤシ一行の大行進は止まらない。
神田目指して一直線。そりゃ世にも恐ろしい光景が広がっていた…。
その時。



「…もー、何で逃げるんですか?カンダぁ…」



どこからともなく響いたその声に反応するように、モヤシ達はぴたり、と
神田の目の前で立ち(?)止まる。

「逃げるに決まってんだろ!!!」

うっかりしっかり答えつつも、その声の方向、
モヤシの大群の最後列を見上げる。
そこには何故か、馬鹿でかいカボチャの被り物をしながら、
手では小さなカボチャを使ってジャグリング、
という、これまた世にも奇妙な出で立ちの大ボスモヤシ、
ことアレン=ウォーカーの姿…。

「…てめぇもその気味悪ぃ被り物外せ!!何なんだコイツらは…っ!!」

目前のモヤシ達を警戒し、六幻を構えたままで叫ぶ。
当のモヤシ達は、何故か嬉々とした雰囲気で神田を見上げている。

「何って、これから貴女のお世話を手伝ってくれる子達ですよー。
可愛いでしょ?」
「………は?」

…今コイツは何て言った?世話役だって?
あまりの事に呆然と言葉も出ない神田に、尚も嬉しそうにアレンは続ける。

「それよりココは気に入りました?君の為に用意した僕らの新居ですv
いわゆる愛の巣ってやつですね。わ、言っちゃったvあははv」
「(…新居を早々に破壊しまくっていいのかよ…)」

この部屋へ辿り着く前に、散々破壊されたこの家を思い出す。
何だか相当暴走している様子のアレンを前に、すでに突っ込み所がズレている事にも気が付かない神田。

「な、何でもいいからとりあえずこいつ等をどこかへやれ!!」
「えーダメですよ、この子達には今後、家事一切を頼むんですからー…」

貴女が家事で怪我でもしたら困るじゃないですかー、等と意気揚揚と言ってのけるアレンはさらに続ける。

「だから、この子達とは仲良くしなきゃダメですよカンダvv」
「何が悲しくてモヤシと仲良くしなきゃならねーんだよ!!
ふざけるなっ!!」

もう何がなんだか訳が分からない。
どうやらアレン自身でこのモヤシ達を退散させる気はさらさら無いようだ。

「お前がその気なら、自分で消し去ってやる!…界蟲一幻っ!!」
「あ、カンダ!言い忘れてましたけどその子達…」

アレンの言葉を無視して、意を決して神田は大量のモヤシへ向かって
イノセンスを開放する。
たかがモヤシに対AKUMA武器が有効なのかは知らないが、
やらないよりマシ。
たかがモヤシにイノセンス発動も情け無い気もするが、
やはりやらないよりマシ。

しかし。

たかがモヤシ、されどモヤシ(?)
神田のイノセンスによって放たれた一幻は、
そのモヤシ達の多さに追いつかず相殺されてしまった。
攻撃を受けたモヤシの残骸が、ぱらぱらと落ちる。
しかし、それだけに留まらず…残ったモヤシ達は攻撃を受けた途端、
某黄色いゴーレムさながらの大口をぱっくりと開けたのだ(牙付で)


とてつもなく、不吉な予感が神田の脳裏を過ぎった…。


嫌な予感と言うのは、当たって欲しくない時に限って当たるもの。

「…その子達、攻撃を受けると反撃する性質が…」
「言うの遅せぇよ!!!…や、やめろ…来るなぁ…っ!!」

…アレンの忠告も時すでに遅し。
口をぱっくり開けたモヤシ達は一斉に神田へと襲い掛かった…。









「…わぁぁぁぁぁ…っ!!!!!!」

…朝。
神田は自分の悲鳴で飛び起きた。

「っ…はぁ、はぁっ…ゆ、夢…?」

窓からは暖かな朝日が。外からは鳥の囀りが。
なんとも清清しい、朝…
…のはずだが。ちっとも気持ち良くない目覚めである。
それもそのはず、寝汗とも冷や汗ともつかぬ汗で体中がしっとりしていて
気持ち悪い。
寝ている間に相当うなされたのだろう、ベッドの上も、
シーツも何もかもがグチャグチャだ。
久しぶりに相当な夢を見た、と神田は髪を掻き揚げながら、
安堵ともつかぬため息をついた。

「…夢で良かった…」

心の底からそう思ったその時。


「カンダ…っ!!どうしたの大丈夫!?」
「何があったんですか!!今の悲鳴は…まさか変質者でも!?」

ドタバタと廊下を走る音と共に、神田の部屋の扉がバタン、
と開け放たれる。
朝から凄まじい悲鳴を聞きつけて、
駆けつけたのはアレンとリナリーだった。

「…いや、別になんでもな…」

冷静を装って、二人を見上げた神田はそのまま硬直してしまった。
心なしか、カタカタと身震いしているようにも見える。
不信に思って、アレンとリナリーはベッドへ近づいて声をかけた。

「カンダ…?どうしたの、顔色悪いわよ…?」
「具合でも悪いなら医療班に見てもら「寄るなぁぁぁぁっ!!!」

アレンが言い終わらぬうちに、神田はベッドサイドの六幻へと手を伸ばす。
そして目にも止まらぬ速さで、ソレを振り上げた…。

「え、え、ちょっと待って下さいカン…ぐぇふっ!!」
「あ…」

振り上げられた六幻は、見事アレンの脇腹へとヒット。
まともに食らったアレンはその場に崩れ落ちる。
殴った神田はと言えば…
ふつり、と気を失ってそのままベッドへ倒れこんでしまった。

「か、カンダ??ちょっとしっかりして!!」
「う…ちょ、いきなり何するんですかって…カンダ??」

それっきり起き上がらない神田に、二人は顔を見合わせる。

「…一体どうしたっていうのかしら…ってアレン君、
ソレいい加減外したら?」
「え?あ、どうりで頭が重いと思った…
慌ててたからそのまま来ちゃったんですよね…よいしょ…と」





ゴロリ、と床に転がされたソレは大きなカボチャの被り物…
神田の倒れた原因がソレだと言うことに、二人が気づくのは、後々…
教団で催された、ある宴の席でのことだった…。

某課題「キモヤシ」をこれで消化…
恐ろしさ緩和の為に夢オチ、という王道に突っ走りました。
もっと本当は恐ろしいブツだったんです…(遠い目
それにしても、もう私が嫌だ、怖いよキモヤシ!!(笑)

長くなったので落としましたが、リナリーは別室でアレンの大道芸を見せて貰ってたんですね。
だからアレンはカボチャ被ったままだった訳です(笑)