無題
「ユーウ。お疲れさーん!」
ガラリ、とコンパートメントの扉を開けると、彼は窓の外を眺めていた。
突然の訪問者の呼び掛けにチラリと此方を見たが、
すぐに外の景色へと視線を戻してしまう。
「おーいユウ?無視すんなよー…ユウちゃーん??」
特に咎められもしなかったので、彼の前の座席へと座った。
それから彼がこちらを向いてくれるまで、何度も呼びかける。
横顔を覗き込む様に首を傾げると、名前を呼ぶ度に彼の眉間に
皺が寄せられていくのが見えた。
「ユーウー…ユウちゃーん…ユーウーさー…!」
「人の名前連呼すんな、うるせぇ…それにソノ呼び方止めろっつったろ、ラビ」
「いーじゃんよー、可愛いのにー…」
ジロリ、と鋭い視線で睨まれる。
「それによ?お前だって俺の事名前で呼ぶじゃんさー。お互い様だって」
気にせずニコリと笑いかけると、彼、神田は呆れた様にため息をついた。
それから不機嫌そうにラビを見やる。
「お前は何て呼ばれようと構いやしねぇだろーが。で、何か用かよ。
てか、何でココに居やがる」
「俺?俺もこれから任務ー。この先の駅で先に降りるけど、ユウもこの列車に乗ってるって聞いたからさ。一人じゃ寂しーだろと思って会いに来てやったの」
「…斬られたいのか?」
神田の愛刀を掴む手に力が篭るのを見て、ラビは慌てて答えた。
「いや、嘘だって!相変わらず冗談通じねぇ奴だなぁお前…」
「お前は相変わらず物好きだな。で、本当は何しに来たんだよ。
下らねぇ用事なら容赦ねぇぞ」
短気も相変わらずだ、と心の中で苦笑いをしながら、
ラビは座席に埋もれるように反り返った。
「ユウさ、この前の任務、例の新人と一緒だったんだろ?これから俺もソイツ等んトコ行く訳。だからどんな奴かなーって聞き込み調査!まぁ、実際用事あんのはジジイとコムイだけどな…」
「コムイ…?何であいつまで…」
「どーやらジジイの鍼術だけじゃなく、ブックマンの情報のが必要みてぇだぜ。伯爵側に動きが有ったらしいからなぁ」
「そうか……」
「まぁまぁ。で、それよりどーだったよ、新人さんは。クロス元帥の弟子なんだろ?」
入団早々お前と任務行っちゃったからよく知んないんだよね、とラビは神田の方へと身を乗り出し、興味深そうに見上げた。
そんなラビをチラリと見ると、神田はピクリと眉を寄せる。
「フンっ…どーもこーもあるかよ。最悪だぜ」
吐き捨てるようにそう告げる神田に、ラビは思わず、やっぱり…と苦笑いをした。
「コムイにも言ったがアイツとは合わねぇ。とんだ甘ちゃん野郎だぜ」
「あはは…毎度同じ事言ってる気がすっけどなぁ、ユウは…えーと、新人君の名前なんだっけ。アー…」
「あぁ?あんな奴、モヤシで十分だろ」
「は?モヤシ…?…そんな名前だったっけ?」
「んな訳あるかよバカ。モヤシみてぇだからモヤシって呼んだだけだ」
「…そーですか…」
「だいたいアイツはムカツクんだよ。一々俺の言動にケチ付けやがって。食堂でも任務でもなんでもアイツは一々小姑みたいに…―――」
「………」
突然、思い出したように喋り出した神田を、ラビは呆気に取られたように眺めた。
そう長い付き合いでもないが、理由はどうあれ、他人に関してココまで饒舌になる神田をラビは初めて見たのだ。
思いつく限りの愚痴を並べて尚も、神田の口は止まらない。
何時の間にか身を乗り出して、ラビに迫る勢いだった。
「…――大体な、アイツは初対面で人の名前呼び捨てにしやがったんだぞ!?そんな礼儀知らず、モヤシで十分だろ!!」
「…あ、そう…ははは(…自分だって初対面早々に斬りつけた癖になぁ…)」
一通り愚痴り倒して満足したのか、神田はフン、と鼻を鳴らし、
腕を組んでドサリ、と座席へ座り直した。
「あー…で、本当はなんて名前だっけか…その、モヤシ君は…」
「お前覚えてねぇのか?アレンだろ。アレン=ウォーカー」
「なんだ、知ってんじゃん。本名」
「何度も訂正されたんだよ。あれだけ言われりゃ嫌でも覚える」
そう言ったきり、神田はまた外へと視線を外した。
時折何か思い出すように目を細めて黙り込む。
そんな様子を見ていて、ラビはポツリと呟いた。
「…そんなに心配なら無線でもやればいいじゃんよ…」
「っな、何言ってんだバカ!!そんな訳あるかっ!!」
途端、弾かれた様に顔を上げ反論する神田だが、
その顔は覗く耳まで赤く染まっていた。
珍しい事もあるもんだ、とラビは関心したようにヒュゥと口を鳴らす。
「あれ、ユウちゃん図星?嫌だなぁ、冗談だったのに…そっかぁ図星かぁ…」
「うるさいっ!下らん事言うと斬るぞ…っ!!」
「へぇー…あのユウがねぇー…」
尚も冗談半分で冷やかすと、神田は羞恥か怒りか、
益々真っ赤になり、怒鳴りつける。
「だ、ま、れーっ!!ラビっ!もう出てけ…っ!!」
「はーいはい。わーったよー。その気持ち、しかとモヤシ君に伝えてやるぜー」
「…しつこいっ!!」
ニヤニヤと笑いながら、ラビは個室の扉を開けた。
チラ、と振り返ってみれば、わなわなと震えながら
尚も真っ赤になっている神田がいる。
「…照れんなよ。ユウがそんな可愛い奴だとは、オレ知らなかったわ。
じゃ、またなー!」
そう言い残して、ラビは後ろ手に扉を閉めた。
背後からはまた怒鳴り声が響いていたが、
何を言ってるのかはもう分からなかった。
車両に停車を告げるアナウンスが響いた。
突発本誌捏造。
ラビがユウ、ユウ言ってるのは管理人が呼びたいからです(え
っていうかラビ、キャラ違う?まだ掴めません…
時間軸的にはラビがアレン達の元へ来る途中、あたりで…
04.12.06
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