※デイシャフルネームが出ます(笑)本誌未読者はご注意。

 

++過ぎ去りし++




街の人々の出足も減り始め、夕暮れも近くなった頃。
合流を約束した時間に、指定場所である街外れの噴水広場。
時間の少し前に到着した神田は、噴水の縁へ腰掛ける、黒い人影を見つけた。

「…デイシャ」
「おう、早かったじゃん神田。どうだったよ?そっちは…」
「全く、だ」

軽く首を横に振って見せると、同じく、と言う様に黒ずくめの彼、
デイシャ・バリーは上体を大きく反らし、体を伸ばした。
自分達の師であるティエドール元帥を捜索して、早数カ国。
今、彼らがいるこの街は、美術骨董が盛んな街だった。
絵画を好む師が、よくこの街の名を口にしていたのを思い出し、
この国へ足を踏み入れたのが今朝、昼前の事。
ティエドールが好みそうな美術商が点在するこの街で、
いくつかのエリアを単独に別れて捜索しよう、となったのが丁度正午あたり。
夕刻のこの時間に、この場所で落ち合う事も3人で決めていた。
この街は然程、伯爵一派の侵略は受けていないらしく、特に何事もなく。
かといって、肝心なティエドールの有力情報は何一つ掴めぬまま、時間は過ぎ去っていったのだが。





そして現在。合流指定時間、10分を過ぎ…。







「…アイツはどうした」
「見ての通りじゃん。マリのおっさんはまだ来てねぇ。オイラが一番乗りだったからな」
「…チッ」
「まぁそうイライラすんなって。いつもの事じゃん?」

見るからに不機嫌そうな、気の短い末の弟弟子を宥めながら、
腰掛けて宙に浮いた足をぶらりと揺らして、デイシャは空を仰いだ。
つられて、神田も空を見上げれば、どんよりとした厚い雲がかかり始めている。
この分だと、今夜は雨かもしれない。

「…とは言っても、そろそろマズイかねぇ…」

鋭く高い鼻をすすって、デイシャはちらりと神田を見た。
夕暮れも追い討ちをかけて、すでに辺りは薄暗い。
気温も下がり始めているのか、若干肌寒い気もする。

「…チッ、一体どこ入り込みやがったんだ…」
「この天気だしなぁ。大方、またどっかの路地裏で犬っころでも構ってんじゃねぇの?」

冗談めかして笑う彼に、笑い事じゃねぇ、と神田は悪態をついた。
と同時に、強ち冗談でもなさそうなその理由に、頭痛を覚える。





体格も自分達より遥かに大柄な兄弟子は、その体格に似合わず大分温和な性格だ。
弱い者は見捨てず、な彼は動物に懐かれてしまう事が多い。
元々動物好きなのか、はたまた彼の「色々な原因で培われた」父性を刺激するのが原因か。
路地裏などに捨て置かれた犬猫が、どうしても目に入ってしまうそうだ。
この国へ来るまでの道中も、ふと気がつけば姿が見えない事が多々あったが、
大抵人気の少ない路地裏などで発見する。箱を目の前に、だ。
しばらくすると自ら戻って来る事もあるが、
大抵彼の数歩後ろの足元に、小さなオマケがついて来る事がしばしば。
彼はこの旅で、私物であろうタオル類をすでに3、4枚程、「小さな彼ら」に捧げていたりする。

「ったく、どうにかならねぇのか、アレは」
「どうにかねぇ…懲りねぇな、マリのおっさんも…」

ブツクサと呟く彼らは、兄弟子の世話焼きな性格を培った原因が、
よもや共に過ごした修行時代の自分達にあるとは。
当人である弟弟子達は、まだ当分気づく事はないのだろう…。





「やっべぇ、そろそろ降り出しそうな気配じゃん?」

クンクンと鼻を鳴らして、雨臭ぇ、とデイシャが呟いた。
辺りは降雨前特有の、埃臭い匂いが漂い始めている。
この分だと、あと小一時間もすれば本降りになるだろう。
約束の時刻からも既に30分が経とうとしていた。

「…チッ。俺はこのまま濡れ鼠はご免だぞ」
「そりゃオイラもだって」

ブツブツと文句を言いながら、ふいに神田は、足元に置いていた鞄をおもむろに掴み上げた。
それを見ていたデイシャも、やれやれといった風に、腰掛けていた噴水から飛び降りる。

「しゃーねぇ。じゃあ、宿行く前に恒例の、マリのおっさん捜索開始ってことで」
「めんどくせぇ…」

何だかんだと言いながらも、神田は真っ先に歩を進めた。
とりあえず、無線ゴーレムで呼びかけるとしよう。
もしかしたら、もう近くにいるかもしれない。




幾分早足で歩く弟弟子の背を見やりながら、
デイシャもその後を追った。


某日のメッセで出たマリさん愛犬家捏造設定(笑)
何か、大きい人が子犬とか見てたら可愛いと思いませんか(お前だけだ)
末っ子神田は何だかんだでちゃんと、兄弟子の心配はしてると思います。
あまりにも可愛がられちゃった(からかわれた、とも言う)ので素直じゃないのですよ(笑)

本誌でデイシャがご臨終なさってしまい、現実逃避にわざと仲良しティエチームを捏造。
だってーーーーー(だってじゃないよ)

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