こーいうシーンを絵で見れたら良いのに、という欲望の塊から派生しました(にこ)
「…君って、案外素直ですよね」
色々な意味で、と付け加えてアレンは口付けていたカップから口を離した。
++ Whisper ++
気ままな休日の昼下がり、たまたま食堂で鉢合わせたが為、
半ば強制的に神田はアレンの言うアフタヌーンティーとやらに付き合わされていたと思ったが。
唐突に呟かれたそれに、彼女はしばし呆然としたまま僅かに眉を寄せた。
「…どういう意味だ」
「だから、色々な意味で」
大した問答に成りもせず、再び紅茶を啜り始めたアレンはカップを口元に充てたまま、チラリと彼女を見やった。
マジマジと眺めてみれば、多少キツイ印象ではあるものの、改めて端正な顔立ちであると思う。
先ほど寄せられた眉間をそのままに、彼女は言葉の意味を理解し兼ねるというように俯いたまま。
口には出さないものの、そのうち唸り声でも聞こえてきそうな様子だった。
「…もしかして、素直って言葉が気にかかってますか」
アレンが含み笑いを堪え切れずに顔を上げると、眉間にいっそう深く皺を寄せた彼女の視線とかち合った。
こういった感情だけは自然と滲み出てしまうらしい。大概の感情を表に出すのは苦手な癖に、と
いよいよ声を上げて笑いそうになるのを必死で押し止め、アレンはにこりと微笑んで見せる。
「お前、何が言いたい」
「嫌だなぁ、そんな怖い顔して」
折角の綺麗な顔が台無しですよ、とアレンは再び紅茶を一口流し込んだ。
神田の神経を逆撫でするのは承知の上だが、彼女は席を立つような素振りはちっとも見せなかった。
そんな所がまさにだな、と心の中で意地悪く微笑みながら、アレンは残り少ないカップの中身を眺めていた。
確かに、神田を「素直」というには少し違う気がしなくもない。
彼女の無二の親友は、形容する言葉に「素直だ」と使う事もあるだろうが…。
それでは自分が、こんなにも高揚する心持ちを抑えられないはずがないのだから。
言うなれば、そうむしろ―――――。
「…従順、と言ったほうが近いのかなぁ」
思わず自分の口をついて出てしまった言葉に、
目の前の人物はその手にしたカップをテーブルへと叩き付けるように置いた。
顔を上げずとも、突き刺さるような視線が自分へ向けて集中しているのが良く分かる。
アレンには、彼女を怒らせてしまったか等と杞憂する気持ちは無い。むしろ、彼女の反抗的な視線は好きだった。
「お前な、いい加減に…」
「だって貴女、本当は嫌じゃないでしょう」
「…は?」
「僕と、こうしている事」
言葉を遮るように、笑顔を携えたまま念を押すように見上げれば絶句か、はたまた図星か。
…概ね後者、と確信めいたものを抱えながら、アレンは続ける。
「うーん…部屋へ呼ぶ時も、今日のティータイムも、僕は強制した覚えは無いんですけどね。
君はそれを強制されたからだと、自分自身に言い訳を作って受け入れてる。…違う?」
そこが良いんですけど、と呟いた声は果たして届いたのだろうか。
彼女が唇を噛み締めながら続けた沈黙に、「確信めいたもの」が「確信」に変わる。
カップを握り締める指に力が込められているのを確認して、アレンは微笑みながら席を立った。
「…そうだ、今夜は少し遅くなりそうですけど」
すれ違いざまに振り向くと、神田は先ほどと変わらず身動き一つせぬままそこにいた。
黒髪の隙間から覗いた小さな耳元に口を寄せると、彼女の体がぴくりと跳ねる。
「来るなら…部屋で待ってて下さいね。…それじゃ、また」
去り際に、赤く色づいた耳元へ口付けを忘れずに。
瞬間、強張りを増すような彼女の反応を満足げに眺めて、アレンは足取りも軽く、食堂を後にした。
今までの2作がやたらめったらに暗ーい話だったので、明るい魔王を!…と思ったら撃沈。(どんな趣旨ですか)
Whisper=囁き(声)。